東京地方裁判所 平成8年(行ウ)183号 判決
原告
鈴木敏文(X)
被告
(小金井市長) 大久保慎七(Y1)
同
(小金井市総務課管財課長) 安田栄右(Y2)
右被告ら訴訟代理人弁護士
石津廣司
事実及び理由
四 本件駐輪場設置工事に係る被告大久保の支出負担行為及び支出命令に係る損害賠償請求について
1 右各行為の財務会計法規上の違法性の有無について
(一) 地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づく損害賠債請求は、財務会計行為が違法である場合に認められるものであり、財務会計行為の違法とは、財務会計行為を行う権限を有する者がその権限を行使するに際して遵守すべき規範に反することをいうものである。ところで、普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体等の事務を誠実に管理、執行し、法令又は予算の定めるところに従い支出負担行為を行うべき義務を負っており(地方自治法一三八条の二、二三二条の三)、他方、法は、国民の生命、健康及び財産の保護の見地から、建築物の敷地、構造等に関する最低の基準を定め(法一条)、法またはそれに基づく条例の規定に違反した建築物の敷地について、特定行政庁は当該建築物の管理者等に対して、当該建築物の除去等の当該違反是正のために必要な措置をとることを命ずることができるとされている(法九条)。そうすると、法に違反する建物を建築したときは、当該建築物の除去を命じられる等の損害が生ずることがあるから、普通地方公共団体が建物を建築しようとするときには、当該普通地方公共団体の長は、建築工事の請負契約の締結に際して、当該建物が法に違反するものではないか審査を行い、当該工事が法に違反している場合には必要な是正措置を講じるべき財務会計法規上の注意義務を負っているというべきである。そして(建築関係法規への適合性の審査方法としては、建築確認を要する建物については建築確認を申請することが最も合理的な方法というべきである。もっとも、当該建物に建築関係法規の違反がなく、除去命令の対象とならないときは、建築確認の欠如が直ちに財産上の損害に結びつくものではないが、建築確認が法規適合性を確認する処分であることからすれば、建築確認を欠いたまま漫然と行われる支出負担行為は、差止めの対象となり得るものというべく、建築確認の欠如は財務会計法規上の違法となり得るものということができる。
(二) これを本件について見ると、前記当事者間に争いのない事実等記載のとおり、本件各施設の設置に当たっては、法第五六条の二第一項に違反する事情があり、事前に建築確認を得る必要があったのに、それが得られていないという違法があったのであるから、被告大久保は、本件各施設設置のための請負契約締結の際に、本件各施設の建築関係法規への適合性について審査を行い、是正措置を講じるべき財務会計法規上の義務を負っていたというべきである。にもかかわらず、被告大久保が、右審査を行うことなく本件各施設設置のための請負契約を締結したことは、財務会計法規上の義務に反した、違法な行為というべきである。
なお、本件各施設の設置契約の代金の支出命令については、右各契約が法上当然に無効とはいえない以上、市としてはその工事代金を支払う契約上の義務があり、右義務の履行として行われたものである以上、適法というべきである。なお、建築確認を要する建物であるのにこれを取得していなかった点は、専ら市側の責めに帰すべき事項であり、工事代金の支払を拒否する事由とはならないことは明らかである。
2 ところで、地方自治法二四二条の二第四項の規定による損害賠償請求が認められるためには、違法な財務会計行為が存在しただけでは足りず、当該違法な財務会計行為によって損害が発生したことの立証が必要であるところ、この場合の損害の発生とは、抽象的に損害が生じるおそれがあるというだけでは足りず、具体的な損害が発生したことを要するというべきである。これを本件についてみるに、本件では、本件駐輪場の設置について、特定行政庁の許可及び建築確認をいずれも得ていなかったというのであるから、本件駐輪場に除去命令の対象となり得るような建築関係法規違反が存在した抽象的可能性があることは否定できないが、それ以上に、本件駐輪場が法九条による除去命令の対象となるものであったとか、駐輪場としての本来的用途に供することが不能であったということによって、市が損害を被ったという事実は、全証拠によっても認めることはできないから、結局、右違法の故に原告の主張する財産上の損害が生じたものということはできない。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 水谷里枝子)